妄想放浪記

三十代男の日々の徒然。音楽、映画、ゲーム、妄想世界の放浪日記。

ゲームレビュー 『レッド・デッド・リデンプションII』 暴力と荒野について考えたこと その2

前回記事では、『レッド・デッド・リデンプションII』(以下RDR2)における暴力行使の軽快さについてあれこれ書いたが、今回記事では、これについてもう少し踏み込んでみたいと思う。

RDR2における、暴力の行使へのハードルは低く、拳銃のトリガーは羽の様に軽いのは確かだが、それはあらゆるシチュエーションに共通して言える事ではない。

暴力行為が軽快に成されるシチュエーションというのは、とにかく人目が少ない場所、つまり荒野である。町において銃をぶっ放す事自体は簡単な事ではあるが、すぐに法務執行官がやってきて銃撃戦に突入する事は必至である。必然、町における無法行為には、それなりの覚悟が必要とされ、ここでの暴力は軽快に成されるものとは言い難い。とは言え、町でも暴力行為も可能と言えば可能なのだ。

が、そもそもその選択肢すら無いシチュエーションがRDR2には在る。それは、主人公アーサーの所属するギャング団のキャンプ地だ。

ここでは、拳銃を撃つどころか、銃を眺めたり手入れする事すら禁じられている。そもそも、コマンド画面から銃を取り出す事ができないのだ。

これはどういう事か。

当たり前の話だが、キャンプ地でアーサーが他のメインキャラクターを殺しでもしたら、そもそも物語が立ち行かなくなる。これはゲームという娯楽を成り立たせるための自明のルールだ。

しかし、そういったシステム上の必要性だけが、アーサーがキャンプ地で暴れられない理由なのだろうか。

僕は、アーサーがギャングのキャンプ地で銃を抜けないのは、ここが彼にとって唯一、法が機能している場所だからなのではないかと思う。

ここで言う法とはギャング団の法である。

法がアーサーに染み付いている。
銃を抜くという選択肢すらコマンド画面から消えてしまうほどに。

このキャンプ地におけるアーサーは、隅々まで国家の定める法の浸透した現代を生きる僕にとっても理解できそうな近しい存在である。

現代人の日常生活において、凶器を取り出す、あるいは、殴りつける、等といったコマンドを、選択肢の一つとして用意している人間は一体どれだけいるだろうか。キャンプ地のアーサーの様に、そもそもコマンド画面からその選択肢が抹消されている人間がほとんどではないか。

法は我々に浸透し、内化している。そこに自由な選択肢がある事すら忘れ去ってしまうほどに、我々と法は一体なのかもしれない。


RDR2に、話を戻そう。

兎に角、アーサーにとってのキャンプ地とは我々にとっての日常に近い。
そこでは殺す事は出来ないが、殺される事もまた無い。自由はないが、安心はある。食事は毎日供されるし、ベットもあれば共に遊ぶ友人もいる。
ギャング団のキャンプ地だけがアーサーにとっての「内側」だと言えるだろう。
一方でキャンプ地以外は、アーサーにとっては全てが「外側」だとも言える。
「外側」では命を失うかもしれないが、何だって出来る。
何故ならそこには彼が遵守すべき法が無いからだ。国や州の法律は彼にとっては機能しない。それはせいぜい、かいくぐるべき厄介なハードル、といった程度のものなのだ。


RDR2をプレイしていて、新鮮に感じる点とは、前回記事にも書いたように、その暴力行為の軽快さである。「はずみ」で人を殺す。また時に気まぐれで人を助けたりもする。
こういった行為は全て、アーサーにとっての「外側」、主に、人気のない荒野において成される事になる。つまり、RDR2のどこに新鮮さを感じるのかと言えば、荒野における生、国家による法の浸透した世界の「外側」を体感できると言うことに尽きるのかもしれない。

RDR2は、その「外側」の世界がまだギリギリ身近にあった最後の時代、逆に言うと、「外側」の世界がどんどんと狭くなって行く時代を舞台とした物語だ。なので、如何に荒野と言えども、犯罪行為は気を抜くとすぐに通報され、法務執行官や賞金稼ぎがやってくる。都市部は路面電車や人々でごった返し馬を走らせるのにすら気を配らなけねばならない。いよいよ資本家達が幅をきかせ出す時代である。西部の終焉と共に、資本主義全盛の現代へと繋がる始まりの時代を、RDR2では見事に描き出しており、その息苦しくなっていく感じすら、アーサーを通じてプレイヤーに追体験させてくれる。


全てが法の「内側」へと回収されていく現代において、法の「外側」をプレイヤーに追体験させるGTAシリーズやRDRシリーズが爆売れするのは理解できる。皆が、荒野を、殺し殺される、許し許せる自由を求めているのだ。誰かが定めた法の名の下ではなく、自分の意思と責任で、時に気まぐれに、力を行使する自由を。

ただし、現実世界で「外側」を希求するのは、とても危険な事だ。だから、とりあえず、ゲームなのである。

そんな素敵なゲーム、RDR2。
お勧めです。